DESIGN.md とは何か
Google Stitch が2026年3月のアップデートで導入した DESIGN.md は、デザインシステムをMarkdownファイルとして記述する新しいフォーマットだ。
従来のデザインシステムは Figma のスタイルライブラリや JSON トークンファイルとして管理されてきた。DESIGN.md はそれらと根本的に異なるアプローチを取る。
人間にもAIエージェントにも読める「セマンティックなデザイン言語」 で書かれる。
つまり border-radius: 12px ではなく「Gently rounded corners(やわらかく丸みを帯びた角)」、#294056 ではなく「Deep Muted Teal-Navy(深く落ち着いたティールネイビー)」と記述する。技術値はカッコ内に補足として添える。
なぜ Markdown なのか
| 観点 | JSON トークン | Figma スタイル | DESIGN.md |
|---|---|---|---|
| 人間の可読性 | △ 構造的だが冗長 | ○ ビジュアル | ◎ 自然言語 |
| AIエージェント対応 | ○ パース可能 | △ API必要 | ◎ そのまま読める |
| ツール間ポータビリティ | △ 変換必要 | ✕ Figma依存 | ◎ プレーンテキスト |
| バージョン管理 | ○ Git対応 | △ 外部プラグイン | ◎ Git標準 |
| デザイン意図の伝達 | ✕ 値のみ | △ コメント依存 | ◎ 意図が本文 |
Markdown だから Git で差分管理でき、プルリクエストでデザイン変更をレビューできる。Claude Code や Cursor など AIコーディングエージェントのコンテキストとしてそのまま渡せる のが最大の利点だ。
DESIGN.md の5セクション構成
DESIGN.md は以下の5セクション(+オプション1セクション)で構成される。Google が公開した stitch-skills リポジトリ の公式仕様に基づく。
セクション1: Visual Theme & Atmosphere(ビジュアルテーマと雰囲気)
デザイン全体の「空気感」を自然言語で記述する。ここが DESIGN.md の最も特徴的な部分だ。
## 1. Visual Theme & Atmosphere
The interface embodies a **sophisticated, minimalist sanctuary**
that marries the pristine simplicity of Scandinavian design with
the refined visual language of luxury editorial presentation.
The overall mood is **airy yet grounded**, creating an aspirational
aesthetic that remains approachable and welcoming.
**Key Characteristics:**
- Expansive whitespace creating generous breathing room
- Photography-first presentation with minimal UI interference
- Whisper-soft visual hierarchy that guides without shouting
書き方のポイント:
- 形容詞を2〜3個組み合わせて雰囲気を表現する(例: 「Airy」「Dense」「Minimalist」「Utilitarian」)
- 太字 で重要なキーワードを強調する
- 具体的なデザイン哲学やインスピレーション源に言及する
- 「何を目指しているか」だけでなく「何を避けているか」も書く
セクション2: Color Palette & Roles(カラーパレットと役割)
DESIGN.md の色指定は、描写的な名前 + HEXコード + 機能的役割 の3点セットで書く。
## 2. Color Palette & Roles
### Primary Foundation
- **Warm Barely-There Cream** (#FCFAFA) – Primary background color.
Creates an almost imperceptible warmth that feels more inviting
than pure white.
- **Crisp Very Light Gray** (#F5F5F5) – Secondary surface color
used for card backgrounds. Provides subtle visual separation.
### Accent & Interactive
- **Deep Muted Teal-Navy** (#294056) – The sole vibrant accent.
Used exclusively for primary CTAs, active navigation links,
and selected filter states.
### Typography & Text Hierarchy
- **Charcoal Near-Black** (#2C2C2C) – Primary text color.
Softer and more refined than pure black.
- **Soft Warm Gray** (#6B6B6B) – Secondary text for body copy.
記法ルール:
- 色名は「Blue」ではなく「Ocean-deep Cerulean」のように、色の性格が伝わる描写的な名前 を付ける
- HEXコードをカッコ内に必ず併記する(AIが正確な値を参照できるように)
- 各色に 機能的役割(何に使うか)を明記する
- カテゴリごとにグルーピングする(Foundation / Accent / Typography / Functional States)
セクション3: Typography Rules(タイポグラフィルール)
## 3. Typography Rules
**Primary Font Family:** Manrope
**Character:** Modern, geometric sans-serif with gentle humanist
warmth. Slightly rounded letterforms.
### Hierarchy & Weights
- **Display Headlines (H1):** Semi-bold weight (600), generous
letter-spacing (0.02em), 2.75-3.5rem size.
- **Section Headers (H2):** Semi-bold weight (600), subtle
letter-spacing (0.01em), 2-2.5rem size.
- **Body Text:** Regular weight (400), relaxed line-height (1.7),
1rem size.
- **CTA Buttons:** Medium weight (500), subtle letter-spacing
(0.01em), 1rem size.
書き方のポイント:
- フォントファミリーの「性格」を自然言語で説明する
- 見出しレベルごとにウェイト・サイズ・letter-spacingを明記する
- 技術値(rem, em, px)は記述するが、それだけでなく「relaxed」「generous」など質感も伝える
セクション4: Component Stylings(コンポーネントスタイル)
## 4. Component Stylings
* **Buttons:**
- Shape: Subtly rounded corners (8px/0.5rem radius)
- Primary CTA: Deep Muted Teal-Navy (#294056) background
with pure white text
- Hover: Subtle darkening, smooth 250ms ease-in-out transition
* **Cards/Containers:**
- Corner Style: Gently rounded (12px/0.75rem radius)
- Shadow: Flat by default. On hover, whisper-soft diffused
shadow (0 2px 8px rgba(0,0,0,0.06))
- Internal Padding: Generous 2-2.5rem
* **Inputs/Forms:**
- Stroke: Refined 1px border in Soft Warm Gray
- Focus: Border color shifts to primary accent with subtle glow
記法ルール:
rounded-xlではなく「generously rounded corners」と書くshadow-smではなく「whisper-soft diffused shadows」と書く- インタラクション状態(hover, focus, active)も記述する
- Tailwind/CSS クラス名は使わない。自然言語 + 技術値の併記 が原則
セクション5: Layout Principles(レイアウト原則)
## 5. Layout Principles
### Grid & Structure
- Max Content Width: 1440px
- Grid: Responsive 12-column with fluid gutters (24px mobile, 32px desktop)
- Product Grid: 4→3→2→1 columns (responsive)
### Whitespace Strategy
- Base Unit: 8px for micro-spacing, 16px for component spacing
- Section Margins: Generous 5-8rem (80-128px) between major sections
- Hero Sections: Extra-generous 8-12rem top/bottom padding
### Alignment & Visual Balance
- Text: Left-aligned for body, centered for hero headlines
- Image to Text Ratio: 70-30 split (photography-first)
書き方のポイント:
- レスポンシブブレイクポイントを明記する
- 余白戦略を「breathing room(呼吸する余白)」のように意図を込めて記述する
- タッチターゲットサイズ(44x44px 以上)などアクセシビリティ要件も含める
セクション6(オプション): Stitch Generation Notes
Stitch 固有のプロンプトヒントを書くセクション。他のツールに渡す場合は不要。
## 6. Design System Notes for Stitch Generation
**Language to Use:**
- Atmosphere: "Sophisticated minimalist sanctuary"
- Button Shapes: "Subtly rounded corners" (not "rounded-md")
- Shadows: "Whisper-soft diffused shadows on hover"
**Color References:**
- Primary CTA: "Deep Muted Teal-Navy (#294056)"
- Background: "Warm Barely-There Cream (#FCFAFA)"
DESIGN.md の作り方:3つの方法
方法1: Stitch から自動抽出
Stitch 上で既存プロジェクトのスクリーンを分析し、DESIGN.md を自動生成できる。
- Stitch でプロジェクトを開く
- デザインシステム機能から「Extract」を選択
- DESIGN.md がダウンロードされる
方法2: URL から抽出
任意のWebサイトのURLを指定すると、そのサイトのデザインシステムを DESIGN.md として抽出できる。自社サイトや参考にしたいサイトのデザインルールをキャプチャするのに便利だ。
方法3: Agent Skill で生成
Claude Code や他の AI エージェントで、stitch-skills の design-md スキル を使って生成する。
npx skills add google-labs-code/stitch-skills --skill design-md --global
このスキルは Stitch MCP Server と連携し、以下のパイプラインで DESIGN.md を生成する:
- Retrieval — Stitch MCP Server からスクリーン・HTML・メタデータを取得
- Extraction — カラー、タイポグラフィ、スペーシング、コンポーネントパターンを抽出
- Translation — CSS/Tailwind の技術値を描写的な自然言語に変換
- Synthesis — セマンティックなデザインシステムとして DESIGN.md を生成
実践:DESIGN.md を活用するワークフロー
Stitch → 開発ツールへの橋渡し
Stitch でデザイン
↓ DESIGN.md をエクスポート
AI Studio / Antigravity / Claude Code
↓ DESIGN.md をコンテキストとして読み込み
実装コードを生成
DESIGN.md は AI Studio や Antigravity にインポートできる。開発者がコードを書く際、デザイナーの意図が自然言語で伝わるため、「Figma を見ながら色コードをコピーする」作業が不要になる。
プロジェクト間のデザイン共有
プロジェクトAで作った DESIGN.md をプロジェクトBの Stitch にインポートすれば、同じデザインシステムで新しいスクリーンを生成できる。ブランドの一貫性を保ちながら、毎回ゼロからデザインルールを設定する手間がなくなる。
stitch-loop: 自動化ワークフロー
stitch-skills リポジトリには stitch-loop というスキルもある。これは DESIGN.md と SITE.md(プロジェクトの「憲法」となるファイル)を組み合わせて、AI エージェントが自律的にスクリーンを生成・改善し続けるループを実現する。
SITE.md(プロジェクトビジョン)
+ DESIGN.md(デザインルール)
+ Baton ファイル(次のタスク指示)
→ AI エージェントがスクリーン生成
→ 検証・フィードバック
→ 次の Baton を更新
→ ループ
DESIGN.md 記法の核心:「セマンティックデザイン言語」
DESIGN.md の最も重要な特徴は、技術値を自然言語で包む という記法ルールだ。
❌ やってはいけない書き方
- Primary color: #294056
- Border radius: rounded-xl
- Shadow: shadow-sm
- Background: #FCFAFA
✅ 正しい書き方
- **Deep Muted Teal-Navy** (#294056) — Primary accent for CTAs.
This sophisticated anchor color creates visual focus points
without disrupting the serene neutral foundation.
- Corner Style: **Gently rounded corners** (12px/0.75rem radius)
creating soft, refined edges
- Shadow: **Whisper-soft diffused shadow**
(0 2px 8px rgba(0,0,0,0.06)) on hover
- **Warm Barely-There Cream** (#FCFAFA) — Almost imperceptible
warmth that feels more inviting than pure white
この記法は一見冗長に見えるが、AI がデザインの「意図」を理解して新しいスクリーンを生成する際の精度を大幅に上げる。「#294056を使って」と指示するより「Deep Muted Teal-Navy をプライマリアクションに使って」と指示した方が、AIはデザインシステム全体との整合性を保った生成ができる。
個人開発者にとっての DESIGN.md
DESIGN.md は、個人開発者にとって特に価値がある。
1. デザインの属人化を防ぐ
自分の頭の中にあるデザインルールを、AIが読める形式で外部化できる。半年後の自分が「このボタン何色だっけ」と迷わなくなる。
2. AIコーディングとの相性が最高
Claude Code や Cursor で新しい画面を作るとき、DESIGN.md をコンテキストに渡すだけで既存デザインと一貫した UI が生成される。
3. ツールロックインからの解放
プレーンテキストだから、Stitch → Figma → コードエディタ → 別のAIツール、どこにでも持ち運べる。特定のツールに縛られない。
4. バイブコーディングのデザイン版
バイブコーディングが「意図を伝えてコードを生成する」なら、DESIGN.md は「意図を伝えてデザインを生成する」ためのフォーマットだ。Google が「バイブデザイン」と呼ぶ概念の中核にある。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 形式 | Markdown(プレーンテキスト) |
| 構成 | 5セクション + オプション1 |
| 核心 | セマンティックデザイン言語(自然言語 + 技術値) |
| 生成方法 | Stitch自動抽出 / URL抽出 / Agent Skill |
| 活用先 | Stitch / AI Studio / Antigravity / Claude Code / Cursor |
| Git管理 | ◎ 差分管理・PRレビュー可能 |
DESIGN.md は「デザイントークンの次」を示すフォーマットだ。値だけでなく意図を伝え、人間にもAIにも同じように読める。バイブコーディングが広がる中で、デザインの一貫性を保つための新しい標準になる可能性がある。
一次ソース:
- Google公式ブログ: Introducing "vibe design" with Stitch
- stitch-skills/design-md(GitHub)
- DESIGN.md 公式ドキュメント
- DESIGN.md 公式サンプル(Furniture Collections)
💡 エキスパートコメント
AI Solo Craft 編集部のエキスパートが、専門視点で読み解きます。
「色に性格を持たせる」記法が秀逸。Warm Barely-There Cream と書くことで、その色が目指す「微かな温かみ」という意図が共有される。Figma の変数名では伝えきれなかった部分だ。ただし、記述が冗長になりがちなので、チーム全員がこの語彙水準で書けるかは課題。テンプレートとサンプルの充実が鍵になる。
Google が「DESIGN.md」をオープンな Markdown 形式で提唱したのは戦略的に重要。Figma のような閉じたエコシステムではなく、ポータブルなファイルでデザイン資産を持ち運べる。これは AI エージェント時代の「デザインのAPI化」だ。個人開発者にとっては、デザイナーなしでもブランド一貫性を保てる武器になる。
📋 デスクコメント
DESIGN.md は「デザインシステムのREADME」と捉えると理解しやすい。コードにはREADMEがあるのに、デザインには「なぜこの色なのか」を伝えるファイルがなかった。今すぐできるアクション:自分のプロダクトのデザインルールを5セクション構成で書いてみること。Stitch を使わなくても、Claude Code のコンテキストとして有効だ。
DESIGN.md の本質は「デザイントークンにセマンティクスを持たせた」こと。JSON トークンは値を伝えるが意図を伝えない。Markdown + 自然言語なら AI エージェントの system prompt にそのまま入れられる。Agent Skills 標準で MCP 連携もできるので、Stitch 以外のツールチェーンにも組み込める設計になっている。Git 管理との相性の良さも実務的に大きい。