🎨 UIUX2026年3月13日22分で読める

事業会社がUIUXを全社統括する組織モデル — 楽天・リクルート・Amex・IBMの先進事例に学ぶ

楽天のユーザビリティ保証チーム、リクルートのデザインマネジメントユニット、Google Material Design、SpotifyのEncore、UberのBase等、国内外12社の先進事例を「組織モデル」「具体的な仕組み」「成果」の3軸で整理。個人開発者が取り入れられるエッセンスも解説。

この記事で得られること

  • 事業会社がUIUXを全社統括するために採用している 3つの組織モデル(集中型・分散型・ハイブリッド型)の違い
  • 楽天・リクルート・American Express・IBM・Salesforce・Airbnb・メルカリの具体的な取り組みと成果
  • 個人開発者が、大企業の仕組みから実際に取り入れられるエッセンス

なぜ「UIUX統括組織」が注目されるのか

プロダクトが複数に増えると、チームごとにデザインの方針がバラバラになる。ボタンの色、フォントサイズ、ナビゲーション構造——小さなズレが積み重なると、ユーザーは「同じ会社のサービスなのに使い勝手が違う」と感じるようになる。

この問題を仕組みで解決するために、大規模事業会社は UIUX統括組織 を設けるようになった。ここでは、国内外の代表的な12の事例を紹介する。


🏢 楽天グループ — 3層構造で全社のデザイン品質を担保

楽天は国内で最も体系的なUIUX統括体制を敷いている企業の一つ。その構造は3つのレイヤーに分かれている。

① CRD(クリエイティブデザイン戦略部)

約50名のデザイナー・プランナーが在籍する、グループ横断のクリエイティブ専門組織。ミッションは「全社クリエイティブ品質の継続的な向上・進化による、ブランド&ビジネス価値の最大化」。チーフクリエイティブディレクターは佐藤可士和氏が18年以上にわたって担っている。

各事業部のデザイナーは「事業の目標」を追い、CRDは「統一感・品質コントロール・ガバナンス」を担う。この役割分離が、70以上のサービスを持つ楽天のデザイン一貫性を支えている。

出典: AdverTimes — 楽天クリエイティブ戦略部の取り組み 2022/02

② ReX(Rakuten Experience)デザインシステム

全サービス共通のUIコンポーネント・デザイントークンを提供するデザインシステム。ユーザビリティの担保と制作効率化を両立している。

③ Usability Assurance Team(ユーザビリティ保証チーム)

これが楽天の最もユニークな点。リリース前の新規プロダクト・大規模リニューアルを対象に、ユーザビリティ品質を定性的・定量的に評価する専門チームが存在する。

基準を下回るサービスは提供開始前に改善する仕組み(UA = Usability Assurance)が「必須プロセス」として運用されている。楽天モバイルでは、UA実施の前段階からユーザビリティテストを積極的に実施し、ナレッジシェア・プロセス改善まで展開している。

出典: Cocoda Design — 楽天のUA活動について 2024/11, 2025/12

楽天モデルの特徴: デザインシステム(ReX)× 品質保証(UA)× 横断組織(CRD)の3層構造。品質を「作る仕組み」と「守る仕組み」の両方を持っている。


🏢 リクルート — 有志の勉強会から90名超の横断組織へ

デザインマネジメントユニット(2019年設立)

リクルートのデザインを横断的に統括する社内組織。設立当初は10名未満だったが、現在は90名超に成長した。各部署に散っていたデザイン職を段階的に統合している。

役割:

  • プロダクト開発・デザイン
  • デザイン戦略の策定
  • デザイナーの評価システム策定

「デザインディレクター」職を設け、プロダクト価値の最大化をリード。ブランドプランニングユニットと併設で、プロダクトとブランドの両面をカバーしている。

出典: Biz/Zine, SELECK, JDN

リクルートモデルの特徴: 「ボトムアップ型」の成長。有志の勉強会から始まり、実績で組織の必要性を証明して公式化された。


🏢 American Express — デザインが経営成果に直結した好例

Enterprise Design & Research Team

150名超のデザイナーを1つの組織に統合。従来、メンバーシップ部門とアクイジション部門に分かれていたデザインチームを戦略的に一本化した。

主な施策:

  • UX Center of Excellence を組織内に水平配置
  • 外部採用ではなく、既存デザイナーからリーダーを育成(内部昇格)
  • デザイン駆動のCX改善を全社方針として推進

成果: 2024年の純利益は前年比21%増の101.3億ドル。カード利用額は1.55兆ドルで過去最高を記録した。もちろんデザインだけの成果ではないが、CX改善が収益に直結するモデルを確立した点は注目に値する。

出典: Aquent 2025, Okoone 2024, Fuzzy Math


🏢 IBM — デザインシステムとDesign Thinkingの全社展開

IBM Design

IBMは Carbon Design SystemIBM Design Thinking の2本柱で全社のデザイン品質を統括している。

Carbon Design System:

  • IBM Design Languageを基盤に、コード・デザインツール・ヒューマンインターフェースガイドライン・コミュニティを包含
  • Steering Committee(運営委員会)がCarbon全体の方針・ガバナンスを管理
  • オープンソースとして公開されており、外部からのコントリビューションも受け入れ

IBM Design Thinking:

  • 全社にデザイン思考プロセスを教育・浸透
  • プロダクトチーム間の橋渡し・アラインメント・効率向上が主な役割

出典: Carbon Design System 公式, Knapsack

IBMモデルの特徴: デザインシステムをオープンソース化することで、社内外のコントリビューターコミュニティが品質維持を支える構造。


🏢 Salesforce — Centralized + Federated のハイブリッドモデル

Lightning Design System(SLDS)

Salesforceのアプローチは、デザインシステム業界で「教科書的存在」と呼ばれるハイブリッドモデル。

役割 担当 具体的な仕事
Central team 中央のデザインシステムチーム ライブラリアン・配布者・ファシリテーター
Federated contributors 各プロダクトチームのデザイナー 実際の拡張・貢献

中央チームが品質基準を維持しつつ、各チームが自分たちのニーズに合わせて拡張する。この「Salesforceモデル」は多くの企業のデザインシステム組織設計の参考にされている。

出典: Jina Anne (Salesforce UX) / Medium


🏢 Airbnb — 厳格なDLSから柔軟性への進化

Design Language System(DLS)

Airbnbは全プラットフォーム横断で「美しく、アクセシブルで、統一されたデザイン」を実現するDLSを構築した。

特徴的なアプローチ:

  • 初期段階で スタイルの上書きを厳格に制限。これにより採用率が急上昇し、UIのフラグメンテーションが大幅に減少
  • その後、各チームの多様なニーズに対応するため柔軟性を進化させた

この「最初は厳格に統一 → 定着後に柔軟性を加える」というアプローチは、デザインシステムの段階的導入の好例。

出典: Karri Saarinen (Airbnb Design)


🏢 メルカリ — UXリサーチの横断配置

UXリサーチチーム

メルカリはUXリサーチチームを 全社横断のデザイン組織配下 に配置している。

  • 特定プロダクトに従属せず、中立的な立場でサービス全体を見渡す
  • 月間2,000万人以上のユーザー体験を、リサーチ→デザイン→開発の連携で改善
  • リサーチ結果は全社で共有され、プロダクト横断の意思決定に活用

出典: mercan, UX MILK



🌍 グローバルテック企業の事例

先述の7社に加え、世界を代表するテクノロジー企業のUIUX統括の取り組みも見てみよう。


🏢 Google — Material Designとデザインインフラチーム

Google Design / Material Design

GoogleのUIUX統括は Material Design を軸に展開されている。2014年にVP of DesignのMatías Duarteが主導して始まったこのプロジェクトは、現在 Material Design 3(Material You) として進化を続けている。

組織構造:

  • UXA(UX Architecture)チーム: 2013年の大規模リデザイン「Project Kennedy」で形成された小規模タスクフォース。フラットデザインの基盤を作った
  • Design Infrastructure Team: Material Designの設計・配布・品質維持を担当する専門チーム
  • 各プロダクトのデザインチーム: Gmail、Maps、YouTube等の各チームがMaterial Designを適用

Material Design 3はオープンソースとして公開されており、社外の開発者もAndroid/Flutter/Web向けのコンポーネントを利用できる。GoogleはHIGやデザインシステムを「プラットフォーム戦略」の一部として位置づけている点が特徴的。

出典: Google Design, Material Design公式, UXmatters


🏢 Microsoft — Fluent Design Systemによるクロスプラットフォーム統一

Fluent Design System

Microsoftは Fluent Design System(旧Metro → Microsoft Design Language)で、Windows、Office、Teams、Azure等の全製品群のデザインを統括している。

特徴:

  • Fluent UI: Web・モバイルのUIライブラリを統一。React、Web Components、Flutter等の複数フレームワークに対応
  • クロスプラットフォーム戦略: 「デザインから開発まで、アプリ間・プラットフォーム間をシームレスに」というビジョン
  • テーマングアーキテクチャの近代化: スケーラブルで将来性のあるデザインシステムを目指し、テーマ構造を刷新中

MicrosoftのアプローチはIBMに近い「デザインシステム主導」型だが、Windows OSという巨大なプラットフォームを抱えるため、より広範な適用範囲を持つ。

出典: Fluent 2 Design System, Microsoft Design


🏢 Spotify — 自律チームを支えるEncoreデザインシステム

Encoreファミリー

Spotifyは「自律的なスクワッドモデル」で知られるが、デザインの一貫性は Encoreデザインシステム で担保している。

組織構造:

  • Mission Design Teams: 広告、ユーザー成長、内部ツール等の各ミッションごとにデザイン組織を配置
  • Design Systems Team: Encoreの開発・メンテナンスを専任する中央チーム
  • Design Operations: デザインプロセス、ツール、ワークフローを横断的に効率化する専門チーム

Encoreの特徴:

  • Foundation → プロダクト固有のレイヤー構造。共通基盤(Foundation)から各プロダクト固有のシステムへ継承する仕組み
  • 分散チームが管理する「Encoreファミリー」が、Spotifyの自律性を保ちつつ一貫性を実現
  • Spotify for Artistsのような特殊UIも、ローカルシステムとして統合可能

3年間の運用を経て、「厳格な統一」より「フレキシブルな継承」へ進化している点が、大規模組織の教訓として参考になる。

出典: Spotify Design — Reimagining Design Systems, Encore Three Years On, Scaling Design Ops


🏢 Uber — Baseデザインシステムと計測駆動のアプローチ

Base Design System

Uberは Base というデザインシステムで、ライダーアプリ、ドライバーアプリ、Uber Eats等のプロダクト群を統一している。

特徴:

  • 統一されたDSLチーム: Web・iOS・Androidの全プラットフォームを同じ基盤要素に統一
  • アクセシビリティ&インクルージョンをファーストクラス市民に: Uberで初めてA11yを設計の中心に据えたデザインシステム
  • 計測駆動: 2024年に「デザインシステムをスケールで計測する方法」を公開。採用率、コンポーネント使用状況、品質指標を定量的に追跡
  • AI活用: 2026年3月、AIエージェントによるデザインスペック自動生成を導入。数百コンポーネントのスペック作成を数カ月→数日に短縮

Uberの「計測駆動」アプローチは、デザインシステムの効果を経営層に説明する際のモデルケースとして広く参照されている。

出典: Uber Blog — Design System at Scale, Uber Blog — Automate Design Specs


🏢 Atlassian — Product Championsモデル

Atlassian Design System(ADS)

Jira、Confluence、Trello等のプロダクト群を持つAtlassianは、Atlassian Design System で横断的なデザイン品質を維持している。

組織構造:

  • Centralized Stewardship: デザイナー+エンジニアの専任チームがパターンの調査・統合を担当
  • Product Champions: Jira、Trello等の各プロダクトチームから「回転制のアンバサダー」がADSにコンポーネントを貢献
  • 知識の集中管理: 人材の入れ替わりがあっても失われないよう、全デザイン判断を集約・アクセス可能にする

Atlassianのモデルは、Salesforceの「Centralized + Federated」に近いが、回転制のProduct Champions という仕組みで、各チームの当事者意識とデザインシステムへの貢献を制度化している点がユニーク。

出典: Atlassian Design, ADS Overview


3つの組織モデルの比較

モデル 特徴 強み 課題 採用企業
集中型 全デザイナーを1組織に集約 品質統制が強い、一貫性が高い 事業理解が浅くなりがち Amex、楽天CRD
分散型 各事業にデザイナーを配置 事業理解が深い、意思決定が速い 品質がバラつく、ナレッジが分断 (初期の多くの企業)
ハイブリッド型 中央(基準・システム)+ 各事業(実装) バランスが良い、スケールしやすい 組織間の調整コストが高い Salesforce、IBM、リクルート、Spotify、Atlassian
プラットフォーム型 デザインシステムをOSS/プラットフォーム戦略と一体化 エコシステム全体の一貫性、外部貢献 社内外の調整が複雑 Google、Microsoft、Uber

大規模事業会社の多くは、試行錯誤の末に ハイブリッド型 に収斂している。楽天のUA(ユーザビリティ保証)は、ハイブリッドにさらに「品質ゲート」を加えた先進的な形態といえる。


個人開発者が取り入れられるエッセンス

「50人のデザインチーム」を持てなくても、大企業の仕組みから応用できるポイントは多い。

1. デザインシステム = 一人でもスケールする仕組み

大企業が数十人で維持するデザインシステムを、個人開発者はOSSや既存システムで代替できる。Material Design、Tailwind CSS、shadcn/ui、Radix UI——これらを「自分のデザインシステム」として一貫して使うだけで、品質の底上げになる。

2. リリース前のセルフUA

楽天のUsability Assurance的な「チェックリスト × 実機テスト」は規模を問わない。5項目でいいから、リリース前に必ず確認するリストを作るだけで、ユーザビリティの問題は大幅に減る。

セルフUAチェックリスト例:

  • 初回訪問者が3秒以内にサービスの価値を理解できるか
  • 主要タスクが3タップ/クリック以内に完了できるか
  • エラー時にユーザーが次に何をすべきか明示されているか
  • モバイルで実機テストしたか(エミュレータだけでなく)
  • 前回のリリースで指摘された問題が再発していないか

3. 品質基準を「暗黙知」にしない

ガイドライン化・言語化が、チーム(=将来の自分)の一貫性を守る。今の自分が「当たり前」と思っていることも、半年後の自分は忘れている。CLAUDE.mdやREADMEに書いておくだけで、AIコーディングエージェントも含めた「チーム全体」の品質が安定する。


まとめ

事業会社のUIUX統括は、単なる「デザインの管理」ではなく、ユーザー体験を組織の仕組みとして守る取り組み

  • 楽天 は「作る」(ReX)×「守る」(UA)×「統括する」(CRD)の3層構造
  • リクルート はボトムアップで有志10名から90名超の公式組織に成長
  • American Express はデザイン統合がCX改善→収益向上に直結
  • IBM はオープンソースのデザインシステムで社内外のコミュニティを活用
  • Salesforce は中央+分散のハイブリッドモデルの教科書
  • Google はMaterial DesignをOSSプラットフォーム戦略の一部として展開
  • Spotify は自律的スクワッドモデルをEncoreファミリーで支える
  • Uber は計測駆動で採用率・品質指標を定量追跡、AI自動化も導入
  • Atlassian は回転制Product Championsで各チームの貢献を制度化

個人開発者にとっても、「デザインシステムの採用」「セルフUA」「品質基準の言語化」は今日から始められる。大きな組織の知恵を、自分のスケールで活かしていこう。